
回転機の軸受劣化は、初期段階では微小な振動変化として現れ、やがて温度上昇や異音へと発展します。
「振動」と「温度」を同時に観察する相関診断は、故障の芽を早期に捉える最も実用的な方法のひとつです。
軸受劣化と物理的サイン
軸受の損傷は段階的に進行します。温度・振動・音のどこに着目するかで、故障をどの段階で検出できるかが変わります。
劣化段階 | 主な現象 | 検知しやすい指標 |
---|---|---|
初期摩耗(グリース劣化) | 摩擦係数上昇、微振動発生 | 高周波振動(10〜20kHz) |
ピット発生 | 転動面局所損傷、断続的ピーク | 加速度成分(m/s²) |
進行損傷 | 発熱・潤滑不足・振動拡大 | 軸受部温度上昇(+10〜20℃) |
末期破損 | 異音・振動急増・金属片混入 | 音響・温度急上昇 |
温度と振動の関係性
軸受温度は潤滑状態の悪化・摩擦増大を反映し、振動値は機械的な損傷・アンバランスを反映します。
両者を同時に監視することで、異常の「発生源」と「進行度」を判断できます。
現象 | 振動傾向 | 温度傾向 | 主な原因 |
---|---|---|---|
グリース切れ | 高周波振動増加 | 徐々に上昇(時間経過) | 潤滑剤蒸発・劣化 |
芯ずれ・アンバランス | 1×, 2×成分上昇 | 局所的に高温 | カップリング位置ずれ |
転動面損傷 | 広帯域ノイズ+高周波ピーク | 温度変動大 | 疲労ピット・異物混入 |
軸受焼付き | 全帯域振動急増 | 急上昇(+30℃超) | 潤滑消失・過負荷 |
診断データの取り方
- 測定点設定:軸受外輪部(DE側/非駆動側)に加速度センサ+温度センサを設置
- サンプリング:振動は高分解能FFT(10kHz以上)、温度は1秒間隔で同時計測
- 同期:振動ピーク発生と温度上昇タイミングを比較
- トレンド管理:時間軸で両データをグラフ化し、相関係数を算出
振動上昇が先行していれば機械的劣化、温度上昇が先行していれば潤滑・熱伝達の問題が疑われます。
実際の相関グラフ例(概念)
- 初期段階:振動変化が小さく温度安定 → 正常
- 劣化進行:振動RMS値上昇後に温度上昇 → 軸受摩耗
- 末期段階:振動急増+温度急上昇 → 焼付き直前
判定の基準値(目安)
指標 | 正常範囲 | 注意 | 異常 |
---|---|---|---|
振動速度(mm/s RMS) | 3.5以下 | 3.5〜7.1 | 7.1以上 |
軸受温度(℃) | 60以下 | 60〜75 | 75以上 |
温度変化率(℃/h) | <1 | 1〜3 | >3 |
代表的な診断機器とメーカー
メーカー | 特徴 |
---|---|
日置電機(HIOKI) | 振動+温度ロガー対応。トレンド管理に適す。 |
キーエンス(KEYENCE) | 固定式振動センサ+温度カメラを統合監視可能。 |
小野測器(ONO SOKKI) | 高速FFT解析機能で周波数特性の把握に強い。 |
横河電機(YOKOGAWA) | プラント常時監視用データロガーを提供。 |
診断のコツと注意点
- 温度と振動を同一時間軸でログ取得(同期が最重要)
- 温度は周囲環境温度との差(ΔT)で管理する
- 振動の周波数成分を特定し、原因(軸受・回転・電動機)を切り分け
- 再注油後の温度低下を確認し、潤滑状態を定量評価
データ化と運用例
Excelやクラウドダッシュボード上で「温度×振動」マトリクスを作成し、各機器の健康度をRAG表示する運用が効果的です。
- G(正常):ΔT < 10℃、RMS < 3.5 mm/s
- A(注意):ΔT = 10〜20℃、RMS 3.5〜7.1 mm/s
- R(異常):ΔT > 20℃、RMS > 7.1 mm/s
まとめ
軸受温度と振動の相関診断は、単独測定では見落としがちな「初期異常」を数値で把握できる手法です。
定期的なデータ蓄積とトレンド分析により、設備の健康状態を可視化し、故障前に確実なメンテナンス判断を行いましょう。