リスクアセスメントは、設備の点検・作業・運転において発生し得る危険を洗い出し、そのリスクを評価・低減するための体系的な手法です。
製造現場の安全を確保し、事故やトラブルを未然に防ぐために欠かせません。
1. リスクアセスメントとは?
リスクアセスメントとは、作業や設備に内在する危険源(ハザード)を特定し、そのリスクの大きさを定量的・定性的に評価して、必要な対策を決定するプロセスです。
労働安全衛生法でも努力義務として定められ、点検・保全業務においても必須の考え方です。
目的
- 作業中の災害や事故を未然に防止
- 潜在的なリスクを早期に把握し、効果的な対策を立案
- 安全・品質・保全を一体で管理
2. リスクアセスメントの基本ステップ
リスクアセスメントは次の4段階で進めます。
① 危険源の特定(Hazard Identification)
設備・作業の中で「何が」「どのように危険か」を洗い出します。
- 回転部・可動部(巻き込まれ・挟まれ)
- 電気設備(感電・短絡)
- 高温部・高圧部(やけど・破裂)
- 化学物質(漏洩・中毒)
- 高所作業・重量物(墜落・転倒・落下)
② リスクの見積もり(Risk Estimation)
危険の重大性と発生頻度を評価し、リスクレベルを算出します。
| 評価項目 | 内容 | 区分例 |
|---|---|---|
| 重大性(Severity) | 災害・損害の大きさ | 1:軽微〜5:致命的 |
| 頻度(Frequency) | 発生する可能性の高さ | 1:まれ〜5:頻繁 |
| 暴露度(Exposure) | 人が危険に接する機会 | 1:短時間〜5:常時 |
リスクレベル=重大性 × 頻度 × 暴露度で算出し、数値が高いものを優先的に対策対象とします。
③ リスクの評価(Risk Evaluation)
見積もられたリスクを基準と比較し、受容可能かどうかを判断します。
- 高リスク(要対策):直ちに改善・対策が必要
- 中リスク(注意管理):作業条件を見直し、教育を強化
- 低リスク(許容可):現行維持、定期再評価
④ リスク低減対策(Risk Reduction)
リスクの高い項目について、実際に対策を講じます。
原則として「工学的対策 → 管理的対策 → 教育的対策」の順で実施します。
| 対策区分 | 内容例 |
|---|---|
| 工学的対策 | ガード設置、インターロック追加、自動化 |
| 管理的対策 | 作業手順書の改訂、点検頻度の見直し |
| 教育的対策 | 安全教育、KY(危険予知)訓練 |
3. リスクアセスメント表の作り方
リスクアセスメントは、Excelやクラウド上で簡単に作成できます。
| 作業内容 | 危険源 | リスク評価 | 対策 | 担当者 |
|---|---|---|---|---|
| ポンプ点検 | 回転部への巻き込まれ | 高 | カバー設置・停止確認 | 保全担当 |
| 制御盤清掃 | 感電 | 中 | 絶縁手袋・電源遮断 | 電気担当 |
| 薬品交換 | 飛散・皮膚炎 | 高 | 防護具着用・マニュアル整備 | 環境安全 |
点検・報告クラウドツールを活用すれば、アセスメント表の共有・更新・承認をオンラインで効率化できます。
4. IoT・AIとの連携
近年は、リスクの予兆をIoTやAIで把握する「デジタルリスクアセスメント」も登場しています。
- センサで異常兆候をリアルタイム検知
- AI異常検知ソフトによる危険源の自動推定
- クラウドで過去の事故データを分析し、リスクスコアを提示
これにより、従来の「発生後対策」から「予兆段階での防止」へと進化しています。
5. リスクアセスメントを継続する仕組み
- 定期的な再評価(年1回・大規模更新時)
- ヒヤリハット報告との連携
- 教育・訓練で全員が同じ基準で判断できるようにする
- CMMSや教育クラウドとの統合で履歴を自動記録
まとめ
リスクアセスメントは、安全管理の基礎であり、設備診断・点検の根幹でもあります。
危険を「見える化」し、評価と対策を仕組み化することで、“安全で止まらない工場”を実現できます。
まずは1設備・1工程から始め、継続的な見直しを習慣化しましょう。







