転位歯車とは、歯車の歯形を加工する際に工具の位置(カッタ位置)をずらすことで、歯形を意図的に変化させた歯車のことです。
モジュールや圧力角を変えずに、歯強度や噛み合い条件を調整できるため、精密機械やモータ減速機で多用されています。
この記事では、転位歯車の仕組み、メリット・デメリット、どんな場面で使うのかを初心者にもわかりやすく解説します。
転位歯車とは?
転位歯車は、工具の位置を変えて歯形を修正した歯車です。
歯形加工時に行う「転位量(x)」によって歯の形状が変わり、以下の特徴を得られます。
転位の種類
- 正転位(+転位):工具を外側へ → 歯元が強くなる
- 負転位(−転位):工具を内側へ → 歯先が強くなる
転位量の単位は「モジュール」を基準にした無次元数(x)で表されます。
なぜ転位歯車が必要なのか?
歯車は「歯先が欠ける」「歯元が折れる」など、負荷のかかり方で壊れ方が変わります。
そのため、用途に応じて歯形を最適化し、強度バランスを調整する必要があります。
転位加工は、歯車を強くする最もシンプルで効果的な方法です。
転位歯車のメリット
① 歯元強度を上げられる(正転位)
歯元が厚くなるため、曲げ応力に強くなる。
② 歯先強度を上げられる(負転位)
歯先が鈍くなり、欠けにくくなる。
③ 芝切り(干渉)を避けられる
小歯数ギアで起こる「歯先の削れ(under cutting)」を防止。
④ 心間距離を微調整できる
転位量の調整により、心間距離(センタ距離)を柔軟に設計できる。
⑤ 噛み合い率を改善しやすい
静音性・振動低減に効果がある。
転位歯車のデメリット
- 設計が難しくなる(転位量の最適化が必要)
- 過剰な転位は静音性を悪化させる
- 加工メーカーによって精度が異なる
- 心間距離が変わるため、設計自由度が制限される場合がある
転位は「やればよい」というものではなく、適切な計算と経験が求められます。
どんな場面で使われる?
転位歯車は以下の用途で多く採用されています。
- モータ減速機(静音・高寿命が必要)
- 自動車用ギア(高負荷)
- 電動工具のギア列
- 産業用ロボットの駆動部
- 小歯数ギアが必要な装置(干渉防止)
特にヘリカルギアとの組み合わせで威力を発揮します。
転位歯車の設計ポイント
- 歯数比に応じて正転位・負転位の配分を決める
- 噛み合い率と強度のバランスを取る
- 心間距離の変化を考慮する
- 歯面粗さや加工精度に注意
小歯数ギア(Z≦17)では、転位はほぼ必須です。
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まとめ
転位歯車は、歯形を最適化することで「強度」「静音」「寿命」を改善できる高度な歯車です。
- 転位量で歯元・歯先の強度バランスを調整
- 干渉防止・噛み合い改善に効果
- 用途に応じて正転位・負転位を使い分ける
正しい設計と選定により、高効率で静かな歯車システムを実現できます。












