インバータのキャリア周波数(Carrier Frequency)とは、モータへ供給する電圧をPWM制御する際の「スイッチングの速さ」を示す周波数です。
キャリア周波数は、モータの騒音・発熱・効率・ノイズに大きく影響するため、インバータ設定で最も重要なパラメータのひとつです。
この記事では、キャリア周波数の基礎、メリット・デメリット、設定の考え方を初心者にも分かりやすく解説します。
キャリア周波数とは?
キャリア周波数とは、インバータがIGBT(またはMOSFET)をPWMで高速スイッチングする際のON/OFFの繰り返し周波数(kHz)のことです。
PWM=Pulse Width Modulation(パルス幅変調)
キャリア周波数の典型値
- 2〜4 kHz:一般的な産業用途
- 8〜12 kHz:静音用途
- 15 kHz以上:高性能用途・小型モータなど
キャリア周波数を上げるとモータ音が静かになりますが、発熱と損失が増加します。
キャリア周波数がモータに与える影響
① 騒音レベル(高いほど静かになる)
低いキャリア周波数では、
「キーン」「ビー」というスイッチング音が可聴域に入ります。
設定を高くすると人が聞こえない帯域に移動し、静音化される。
② モータ温度(高いほど発熱しやすい)
スイッチング回数が増えるほど損失が増え、モータ・インバータともに温度上昇しやすい。
③ 効率(高いほど低下しやすい)
スイッチング損失が大きくなるため効率がやや落ちる。
④ EMIノイズ(高いほどノイズが増えやすい)
電子ノイズが増加するため、周辺機器への影響を考慮する必要あり。
⑤ モータ寿命(高すぎると短くなる可能性)
特に小型モータでは熱による絶縁劣化に注意。
キャリア周波数を上げるメリット
- モータのスイッチング音が静かになる
- 低速運転が滑らかになる
- ポジション制御の精度が向上する場合がある
静音が求められる工場(食品・製薬・研究所など)で有利です。
キャリア周波数を下げるメリット
- 発熱が減り、インバータ寿命が伸びる
- 効率が向上する
- 大容量モータで安定性が高い
- 高温環境で有利
大型ファン・コンプレッサ・ポンプ用途では低め推奨。
キャリア周波数設定の実務ポイント
① モータ容量が大きいほど低めがおすすめ
大電流が流れるため発熱が増える。
② 高速回転・高精度が必要なら高め
低速の脈動を抑制できる。
③ 周囲温度が高い場所では低め設定
スイッチング損失の増加に注意。
④ ノイズが問題になる場合はフィルタ追加
EMIフィルタ・ノイズフィルタで対策可能。
用途別の推奨キャリア周波数(目安)
| 用途 | 推奨キャリア周波数 |
|---|---|
| 大型ファン・ポンプ | 2〜4 kHz |
| 搬送モータ | 4〜8 kHz |
| ロボット関節・高精度用途 | 8〜12 kHz |
| 静音が必要な環境 | 10〜15 kHz |
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まとめ
インバータのキャリア周波数は、モータ音・発熱・効率に大きな影響を与える重要な設定値です。
- キャリア周波数=スイッチング回数(PWM制御)
- 高いほど静音だが発熱増
- 低いほど効率が良く寿命が伸びる
- 用途に応じて2〜15 kHzで設定する
正しい設定により、モータの寿命・省エネ・騒音対策が大幅に改善されます。












