慣性カップリング(Inertia Coupling)とは、**回転系の過負荷や異常衝撃から機械を保護するために使われる安全機構付きカップリング**です。
一定以上の急加速・急減速が発生すると、慣性力によって接続が切り離され、モータやギアの破損を防ぎます。
一般的なカップリングとは異なり、「慣性」を利用して保護する点が特徴です。
この記事では、慣性カップリングの仕組み、用途、メリット、選定ポイントをわかりやすく解説します。
慣性カップリングとは?
慣性カップリングとは、
設定以上の加速度(衝撃)が加わると、慣性力によってカップリングが切り離される安全装置付きカップリング
のことです。
通常運転ではトルクを伝達しますが、
- 異常衝撃
- 急停止
- 過負荷
が発生すると慣性を利用して分離し、機械を保護します。
慣性カップリングの仕組み
一般的には以下のような構造を持っています。
① 慣性体(フライホイール)
一定の質量を持つ回転体が内部に組み込まれている。
② ロック(爪)機構
通常時は爪やキーで軸が結合。
③ 異常加速度で爪が外れる
急激な加速・減速が加わると、慣性体の力で爪が押し開かれ、軸が切り離される。
④ 再結合できるタイプもある
手動復帰・自動復帰など製品による。
どんな時に作動する?
- ワークの噛み込み
- 急停止衝撃
- 過負荷トルクの急増
- 異物の巻き込み
- 同期ズレによるショック
回転系トラブルの初期段階で作動し、損傷を防ぎます。
慣性カップリングのメリット
① 機械を過負荷から確実に保護
モータ・減速機・ギアの破損防止に有効。
② 応答が非常に速い
慣性力を使うため、検出器なしで即作動。
③ 故障診断が不要
構造がシンプルで信頼性が高い。
④ 外乱や電源変動に左右されない
完全機械式のため誤作動が少ない。
デメリット・注意点
① 大きなトルクには不向き
構造上、超高トルク用途には使われない。
② 作動すると駆動が切れる
復帰が必要で、自動化設備では注意。
③ 誤作動を防ぐため調整が必要
適切な加速度設定が重要。
どんな設備で使われる?
- 搬送装置(噛み込み防止)
- 印刷・包装機械
- 軽負荷駆動ライン
- 同期駆動の保護用途
- 回転テーブルの安全機構
繊細な機構が多い装置でよく採用されます。
一般的なカップリングとの違い
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| フレキシブルカップリング | ミスアライメント吸収 |
| トルクリミットカップリング | トルク過大で切り離し |
| 慣性カップリング | 加速度(衝撃)で切り離し |
トルクではなく「衝撃」を基準に作動する点が最大の特徴です。
選定のポイント
- 必要トルク
- 許容加速度(作動レベル)
- 回転数・負荷変動
- 復帰方式(手動 / 自動)
- 軸径・取付方法
精密機械ほど、適切な設定が重要になります。
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まとめ
慣性カップリングは、加速度(衝撃)を基準にカップリングを切り離す安全機構で、過負荷保護に高い効果を持ちます。
- 異常時のみ慣性力で切り離し、機械を保護
- 一般のトルクリミットとは動作基準が異なる
- 搬送・印刷・包装など軽負荷機械で有効
- 復帰方式と加速度設定が選定のポイント
安全性を高めたい駆動装置では、非常に有効な選択肢のひとつです。












