油膜厚さ(Oil Film Thickness)とは、**摺動面や転がり面で金属同士が直接接触しないように保持される“油の層の厚さ”**のことです。
潤滑状態の良否を決める最重要要素であり、焼付き・メタルタッチ・摩耗などのトラブルの発生有無に直結します。
この記事では、油膜厚さの概念、測定の考え方、境界潤滑との違い、適切な判断基準をわかりやすく整理します。
油膜厚さとは?
油膜厚さとは、
摺動部・軸受・ギアなどの接触部に形成される油の層の“厚み”
のことです。
油膜は、金属表面の凹凸を埋めて表面同士の直接接触を防ぎ、摩耗や焼付きを防ぐ役割があります。
金属表面の凹凸と油膜の関係
金属表面には「ミクロン単位の凹凸」があり、これを油膜が覆えるかどうかが潤滑状態を決定します。
- 油膜厚さ > 表面粗さ → 流体潤滑(良好)
- 油膜厚さ ≒ 表面粗さ → 混合潤滑(摩耗が増える)
- 油膜厚さ < 表面粗さ → 境界潤滑(金属接触が発生)
境界潤滑・混合潤滑・流体潤滑の違い
| 潤滑状態 | 特徴 | 摩耗リスク |
|---|---|---|
| 境界潤滑 | 油膜がほぼ切れ、金属接触が発生 | 非常に高い(メタルタッチの主原因) |
| 混合潤滑 | 油膜と金属接触が混在 | 中程度(摩耗が進行しやすい) |
| 流体潤滑 | 油膜が完全に金属同士を分離 | 最も低い(理想状態) |
油膜厚さに影響する因子
① 粘度
粘度が高いほど厚い油膜を形成しやすい。
② 速度(回転数)
速度が速いと油膜が引き込まれやすく厚くなる。
③ 荷重
荷重が大きいと油膜が押しつぶされ薄くなる。
④ 表面粗さ
粗い面は油膜が切れやすい。
⑤ 温度
温度上昇 → 粘度低下 → 油膜厚減少。
油膜厚さの判断基準(実務的目安)
ベアリングの場合
一般的に、
油膜厚さ λ(ラムダ比)= 油膜厚さ ÷ 表面粗さの合成値
を用いて判断する。
- λ ≥ 3 … 流体潤滑(良好)
- 1 < λ < 3 … 混合潤滑(注意)
- λ ≤ 1 … 境界潤滑(危険)
ベアリング寿命計算にも使用される重要指標。
油膜厚さが不足すると何が起きる?
- メタルタッチ(直接接触)
- 摩耗の急増
- 異音・発熱・振動
- 焼付き
- グリース劣化・油膜切れサイクルの加速
油膜厚さを確保する方法
① 粘度の高い油を選ぶ
荷重が大きい設備では必須。
② 給脂・給油を適切に行う
油量不足が最も多い原因。
③ 表面粗さを改善する
研磨・仕上げ改善が油膜安定に直結。
④ 温度管理を徹底する
熱が粘度低下と油膜崩壊を招く。
⑤ 負荷条件を見直す
過負荷・偏荷重は油膜破壊の元。
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まとめ
油膜厚さは、摺動部や軸受の潤滑状態を左右する最重要パラメータです。
- 油膜厚さ > 表面粗さ → 良好な流体潤滑
- 油膜厚さが不足すると摩耗・焼付きが急増
- 粘度・速度・荷重・温度が油膜厚さに影響
- ラムダ比(λ)を用いると実務判断が容易
潤滑管理を適切に行えば、摩耗トラブルは大幅に低減できます。












