タービン、モータ、ポンプ、ファン、スピンドルなど「回転体」を持つ機械では、運転中の振動・不安定現象を理解するために **ロータダイナミクス(Rotor Dynamics / 回転体動力学)** が必要です。
ロータダイナミクスは、アンバランス振動、共振、危険速度、軸受剛性、減衰などを体系的に扱う分野で、回転機器のトラブル予防に欠かせません。
この記事では、ロータダイナミクスの基礎概念を専門知識がなくても理解できるように簡潔に解説します。
ロータダイナミクスとは?
ロータダイナミクスとは、
「回転体が回転するときの挙動(変位・振動・安定性)を解析する学問」
です。
特に重要となるのは以下の要素です。
- アンバランスによる振動
- 共振(危険速度)の予測
- 軸のたわみ・ねじり挙動
- 軸受剛性・減衰の影響
- 回転速度上昇時の安定性
これらを理解することで、回転機の寿命向上、トラブル予防、振動低減につながります。
ロータ(Rotor)とは?
回転軸・羽根・円盤など、回転して運動エネルギーを持つ部品の集合体のことです。
代表例:
- モータロータ
- タービンロータ
- ファン・ブロワのインペラ
- スピンドルシャフト
ロータは高速回転するほど「わずかなアンバランス」でも大きな振動になるため、特性を理解する必要があります。
ロータダイナミクスで重要な現象
① アンバランス振動(1X振動)
回転体の質量中心が軸からずれていると、遠心力により振動が発生。
② 共振(危険速度)
固有振動数に回転速度が一致すると振幅が急上昇。
例:
1000 rpm 付近で急激に揺れ、通過すると安定する。
③ ジャイロ効果
ディスク形状のロータでは高速回転時に軸方向の挙動が変化。
④ ホワール(油膜振動)
すべり軸受特有の自励振動。
特に大型タービンで重要。
⑤ クリティカルスピード(Critical Speed)
共振点に相当する「避けるべき回転速度帯」。
ロータダイナミクスのモデル化
回転体は次のようにモデル化されます。
- シャフト剛性(軸のスティッフネス)
- 質量分布(ロータ形状)
- 軸受剛性・減衰
- アンバランス量
これらを組み合わせて、挙動を解析します。
ロータダイナミクスで使用される解析例
① 振動スペクトル解析(FFT)
1X(回転次数)が支配的 → アンバランス
2X → ミスアライメントなど
② モーダル解析
固有振動数と振動モードを把握。
③ 回転速度試験(Run-up / Coast-down)
増速・減速時の振動変化(危険速度の確認)。
ロータダイナミクスの改善方法
① バランシング(静・動)
回転体のアンバランス量を低減。
② シャフト・フレームの剛性向上
剛性不足は低い回転で共振を招く。
③ ベアリング選定の見直し
剛性・減衰特性が大きく影響。
④ ミスアライメント(芯出し)の改善
軸ズレは二次的な振動の原因。
⑤ 回転速度プロファイルの調整
危険速度を通過する速度を速める(一般的対策)。
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まとめ
ロータダイナミクスは、回転体が示す振動・安定性を解析する学問で、高速回転機では必須の知識です。
- アンバランス・共振・油膜振動などを扱う
- シャフト剛性・質量分布・軸受が強く影響
- 危険速度を把握することが重要
- バランシング、剛性向上、芯出しで改善可能
回転体の安全性・静音性・寿命を大きく左右するため、保全・設計の現場で欠かせない分野です。












