赤外線サーモグラフィカメラは、機器や設備の表面温度を非接触で測定し、異常発熱を可視化できる診断機器です。
モーター・配電盤・軸受・冷却設備など、あらゆる装置の異常兆候を“温度”で捉えることができます。
本記事では、原理・測定手順・判定基準・活用シーンをわかりやすく紹介します。
赤外線サーモグラフィとは?
サーモグラフィ(Thermography)は、物体が放射する赤外線を検知し、温度分布を画像として表示する技術です。
測定対象に触れずに広範囲を短時間で点検できるため、設備保全・電気点検・建物診断などで広く利用されています。
主な用途
- モーター・ベアリングの発熱診断
- 分電盤・端子・ヒューズの接触不良検出
- 冷却塔・チラーなどの温度分布確認
- 配管・断熱の欠損やリーク確認
- 建屋の断熱性能・漏水箇所調査
原理と特徴
すべての物体は絶対零度(−273.15℃)以上であれば赤外線を放射しています。
赤外線カメラはこの放射エネルギーを検出し、温度に変換して表示します。
測定は「放射率(emissivity)」や環境条件(風・湿度・日射)の影響を受けるため、正確な設定が重要です。
サーモグラフィの特長
- 非接触・非破壊で温度分布を可視化
- 広範囲を短時間で点検可能
- 異常箇所を画像で記録・比較できる
- 高温・高電圧設備の安全点検に最適
測定方法と実施手順
- 測定対象(電気盤・モーター・配管など)を明確にする。
- 放射率設定を対象材質に合わせて調整(例:塗装鋼板0.95、銅0.2など)。
- 撮影距離・角度を一定にし、背景反射を避けて撮影。
- 正常時データと比較し、温度差・分布の異常を確認。
- 異常が見られた場合は、原因(接触不良・過負荷・冷却不良)を特定し対処。
温度差による代表的な異常例
| 設備 | 異常傾向 | 主な原因 | 対策 |
|---|---|---|---|
| モーター・ベアリング | 軸受部が局部的に高温 | 潤滑不良・軸ずれ | 給脂・芯出し |
| 分電盤・端子 | 特定相が他より高温 | 接触不良・過負荷 | 締付・回路確認 |
| 冷却塔・チラー | 一部熱交換器が高温 | スケール・流量不足 | 清掃・薬品洗浄 |
| ダクト・配管 | 温度ムラが大きい | 断熱不良・リーク | 保温材補修・漏れ修理 |
測定時の注意点
- 鏡面素材(ステンレス・銅など)は反射誤差に注意。
マスキングテープなどで放射率を一定化する。 - 屋外測定では風速・日射の影響を考慮し、朝夕など安定時間帯を選ぶ。
- 被測定物の汚れ・水滴は温度表示を乱すため、軽く清掃してから測定。
判定と傾向管理
- 過去データと比較し、温度上昇の傾向を管理。
- ±10℃以上の局部上昇がある場合は要注意。
- 異常画像を保存し、定期的に再撮影して変化を追跡。
- Excelや専用ソフトで温度推移グラフを作成。
導入機種の選び方
- 温度分解能(NETD):0.05℃以下で微小差を判別可能
- 解像度:160×120以上で保全点検に十分
- 測定範囲:−20〜350℃が一般的な設備診断向け
- 記録機能:SDカード・Wi-Fi転送対応が便利
- アプリ連携:FLIR ToolsやTestoアプリなどで分析可能
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Q&A
Q. 正確な温度を出すにはどうすれば?
A. 放射率設定を材質に合わせることが最重要です。塗装面なら0.95前後、金属光沢面はテープ貼付で補正します。
Q. サーモ画像の保存目的は?
A. 異常傾向を「見える化」して比較できるため、点検履歴や報告書作成に有効です。
Q. 工場での代表的な使用例は?
A. モーターや配電盤の異常発熱、冷却塔や熱交換器の冷却不良確認など。非接触のため安全に測定できます。












