
メカニカルシール(Mechanical Seal)は、ポンプや攪拌機などの回転軸部分で液体の漏れを防ぐ「高精密軸封機構」です。
オイルシールやパッキンでは対応できない高圧・高温・腐食性流体に使用され、プラント設備やケミカル装置、発電設備などで広く採用されています。
メカニカルシールとは(基礎知識)
メカニカルシールは、回転する軸と固定されたケーシングの間に生じる隙間を、2枚の「摺動面」で密封する装置です。
これにより潤滑液やガスが外部へ漏れ出すのを防ぎ、同時に外部から異物が侵入するのを防止します。
主に以下の特徴があります。
- 回転軸の回転に追従しながら、高い密封性能を維持
- 摩耗が少なく長寿命(適切な潤滑条件下で数千時間以上)
- 高圧・高温・化学流体など過酷環境でも使用可能
- 静止時も動作時も安定したシール性能を維持
構造と仕組み
メカニカルシールは主に以下の部品から構成されます。
- 回転リング(ロータ側):軸とともに回転し、摺動面の片側を構成。
- 固定リング(ステーショナリ側):ケーシング側に固定され、もう一方の摺動面を構成。
- スプリング/ベルローズ:軸方向に押し付ける力を与え、常に接触を維持。
- セカンダリーシール(Oリング等):固定部や回転部のすき間を密封。
摺動面間にはごく薄い液膜が形成され、摩擦熱を抑制しながら高精度に密封します。
液膜がなくなるとドライ運転となり、摩耗や発熱により短時間で損傷するため注意が必要です。
メカニカルシールの種類
- シングルシール:最も一般的な構造。1組の摺動面で密封。
- ダブルシール:2組のシールを直列配置し、シール液(バリア液)で安全性を高めた構造。危険流体や高圧用。
- カートリッジシール:シール部をユニット化。取付精度・保守性に優れる。
- ドライガスシール:ガス圧で浮上させる非接触型。コンプレッサなど高速回転用途。
- ベローズシール:スプリング代わりに金属ベローズを採用。高温・腐食流体用。
主な用途
- 遠心ポンプ・真空ポンプ・ブロワ
- 化学プラント・薬品装置・反応槽
- 発電用タービン・水処理設備
- 食品・医薬品装置(衛生仕様)
- 船舶・油圧・コンプレッサなど
材質の組み合わせと使用条件
摺動面材質 | 特徴 | 用途 |
---|---|---|
カーボン×セラミック | 低摩擦・低コスト・標準構成 | 一般ポンプ |
SiC×SiC | 高硬度・耐摩耗・耐薬品 | 化学・高温流体 |
超硬×カーボン | 耐圧・長寿命・油用 | 油圧・潤滑流体 |
SiC×PTFE | 低摩擦・ドライ対応 | 水・スラリー |
主なメーカー一覧
- NOK株式会社:国内最大手。ポンプ用からプラント用まで幅広く展開。
公式サイトはこちら - 日本ピラー工業株式会社(Pillar):高温・高圧・化学流体対応に強み。
公式サイトはこちら - エーアンドエム株式会社(A&M):メカニカルシール・パッキンの専門メーカー。国内ポンプメーカー向け供給多数。
公式サイトはこちら - EAGLE INDUSTRY(イーグル工業):自動車・船舶・プラント用メカニカルシールの世界的メーカー。
公式サイトはこちら - ジョン・クレーン(John Crane):世界最大級のメカニカルシールメーカー。高圧・高温仕様に特化。
公式サイトはこちら - フローディメック(Flowserve):海外大手。化学・発電プラント向けに強み。
公式サイトはこちら - ミスミグループ本社:汎用メカニカルシール・Oリング・補修用部品をEC販売。
公式サイトはこちら
メーカー比較表
メーカー | 主力製品 | 特徴 | 用途分野 |
---|---|---|---|
NOK | 標準メカシール | 国内最大・信頼性 | ポンプ・一般産業機械 |
日本ピラー工業 | 高温・高圧用 | 化学・薬品対応 | プラント・化学装置 |
イーグル工業 | 船舶・車両・発電設備 | グローバル供給・高耐久 | エネルギー・輸送 |
ジョン・クレーン | 高圧・特殊環境用 | 世界シェアNo.1 | 発電・化学・海洋 |
Flowserve | プラント・重工業向け | 高圧・高温・信頼性 | 発電・石油・化学 |
A&M | 国内ポンプOEM | メンテ性・コスパ | ポンプ・小型装置 |
ミスミ | 標準部品・補修用 | 短納期・少量 | 保全・修理・試作 |
購入先・販売サイト
Q&A(よくある質問)
Q. オイルシールとの違いは?
A. オイルシールはゴム製リップで密封する簡易軸封、メカニカルシールは摺動面で精密に密封する高性能軸封です。
圧力・温度・寿命・価格のすべてでメカニカルシールが上位ですが、構造も複雑です。
Q. メカニカルシールは再使用できますか?
A. 基本的に再利用は推奨されません。摺動面の微細な摩耗・歪みが漏れの原因となります。
交換時はセットで新品にするのが原則です。
Q. 液漏れが発生したときの原因は?
A. 軸振れ・取付偏心・ドライ運転・異物噛み込み・圧力変動などが主因です。
設置時には軸の振れ(0.05mm以下目安)や潤滑状態を必ず確認します。